小倉日明教会

『自分の家に帰りなさい 집으로 돌아가라』

ルカによる福音書 8章 26〜39節

2024年10月6日 聖霊降臨節第21主日礼拝

ルカによる福音書 8章 26〜39節

『自分の家に帰りなさい 집으로 돌아가라』

【説教】 朱 文洪 牧師

【説 教】                       朱 文洪 牧師

 

  • 聖書の物語は多様な読み方が許されています。読み手の置かれている視点から読み直すことで課題が多い現実を照らす御言葉を頂くことが出来ます。合同礼拝で共に「悩み、祈り、癒される」時となりますように。悪霊にとりつかれた男は現代では心の病の神経症患者。特に100人に一人と言われる統合失調症患者の特徴は人と関わらず一人でいることが多い。意欲の低下、幻聴、妄想、独り言 被害意識、話がまとまらない、–症状に苦しんでいます。

 

1.20世紀の偉大なる発見の一つは「無意識」の発見と言われます。ドイツの心理学者ジ-クムント・フロイト(1856-1937)の著書『夢判断』によって提唱されました。彼は「心の病」としての神経症の治療に励む医師でした。心のなかの葛藤の象徴的表現が{ヒステリ-} {脅迫神経症} {恐怖症}等が見られ、その原因と治療を追及する過程で「夢」に注目しました。本人は記憶も意識もしないのに夢で現れる事柄や自分の意思に反する行動は「人の心にある秘密の領域=無意識に押し込んで閉めた事柄が原因」だと説明しました。

 

2.日本の医学協会は2002年から「精神分裂病」の呼び方を変えて「統合失調症」と改名し入院させず、薬を処方しながら普通の生活が出来るようにしました。

北海道・浦河には 精神疾患者共同村「ベテル家」があります。町の人と連携して約80名が昆布作業場で年間7000万円の収益を上げています。初代理事長の佐々木実さんは同病状で退院後、退院仲間と共同村の設立に至ったと言います。

仲間は幻聴、妄想に苦しみ 疲れるとお化けが見え、透明人間が隣にいると思い込み、怯えたり、いきなり叫び、あなたを殺してやろうとも言う時があるんだそうです。

自分の健康状況を時々報告する発表会を欠かさないと言います。

そうしながら普通に仕事して仲間と暮らす共同体として世界で注目を集めています。

 

3.私の大学、軍隊、社会活動(18才~28才)の時期は韓国の長期独裁政権に対する反発が盛り上がった時期でした。(1973-1983)

南北軍事緊張感が高まり戦争への危機感があり、高校、大学で軍事訓練を受け、兵役3年近くは <叩き殺せ金日成> <叩き潰せ共産党> <完成せよ維新課業>の言葉を一日に何回も叫ばれる環境でした。集団生活に馴染まない人の自殺や精神疾患、暴力事故が頻繁にありました。普通の人が人を殺せる軍人になるためにはまず自分の価値観、正義感を捨て、軍隊が押し付ける思考に生きることになります。上官の命令で動く兵士を作り上げるのが軍隊の仕組みであります。

 

4.神学校で、キリスト教育学の講師Aさんの夫、Kさんはソウル大学法学部を出て、大手新聞社の政治部記者でした。政権側が維新憲法を作り、自ら憲法違反を犯す暴力的な政治がまがり通る時代に、政権批判の記事を書いたと情報部に連行され酷い拷問にあいました。その後遺症で精神を病み仕事が出来なくなりました。暴飲暴食、幻聴、妄想、オセロ症候群(妻に対する妄想的嫉妬) に陥りました。周囲から離婚を勧められたAさんは専門病院を探し回り、米国へ移民者となりました。その後、夫婦は如何に歩んだのかわかりません。心痛む話ですが実際、このような被害者は数えきれないほどいるのです。その血と涙の上に民主化が進んだのです。

 

5.ルカ福音書8/26-39 の記事は最初に書かれたマルコ福音書(5/1-20)を参考に挿入されたもので、マタイ福音(8/28-34)でも言及されています。

ローマ帝国の力による支配の中、皇帝の手先のヘロデ王の悪政の下で権力に刃向かう事件は稀ながら続きました。政治犯は十字架刑に処されますが精神が狂った人は免れます。彼は生きた白骨になって自分の居場所を失い、石灰岩の洞窟が多い墓場で生き延びていたと思います。イエスは男の闇の心に向かって語り掛けます。心に強くしみついている恐怖心を取り除く手当を施します。

「名前」を尋ねると「レギオン」と言う。ローマ軍団の6000名規模の部隊を指す名で、強力な力による深い傷を負わされたことが推測されます。恐怖心は男から名前を奪って操り人形のように弄ぶところにイエスがお出でになったと福音書は語ります。神の子、救い主がこの男の心を癒し、本心に立ち戻して下さった事は似てる境遇に置かれた人や周囲の人には光だったに違いありません。

 

6.ルカ福音書の(15章)放蕩息子の物語の核心は{彼は我に返った}の所です。自分を取り戻す。創造主によって造られた存在が恢復される物語を福音書は力強く語ったと思います。

 

7.自分を取り戻した男は裸から服を着て、落ち着かない行動から静かにイエスの足元に座り、叫ぶ者から話を聞く人となった。(36節)

イエスは彼に「神があなたになさったことをことごとく話して聞かせなさい」(38節)と「救いの証言」を託します。彼は、証人として町中に伝えた。(39節)